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やねうらねこ

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静寂のなかへ

次は、パトリシア・A・マキリップのイルスの竪琴のシリーズのなかからの引用です。

(ここまで略)
 「今でも心の奥では知っているはずじゃ」ダナンは空を見上げ、それからまわりで夢中になってせっせと働いている職人たちをちらりと見た。「今日のような日には、簡単に静かにしておることができる。来なさい。誰もしばらくはわしらがおらんことに気がつかんじゃろうて。」
 モルゴンは彼のあとについてハルテを出て、曲がりくねった静かな道を下り、それからキルスのずっと上の森の中へわけいった。二人の足跡は粉雪の中に深々とめりこんだ。二人がずっしりと雪の積もった枝々を押し分けてゆくと、柔らかい粉雪がぱっと舞い上がって、黒っぽく湿った織物のような松の葉を解放した。二人は黙って歩き続け、やがて振り返っても道も、その下のキルスも、ハルテも見えず、ただ暗いじっと動かない樹だけが立ち並んでいるところへ来た。二人はそこで立ち止まって耳をすました。雪は風に吹かれてゆっくりと形を変えながら、静まりかえった世界の上でたゆたっていた。樹はその静寂を型にして作られたかのようで、ごつごつした樹皮も、枝の曲線も、下向きに広がる重い針のような葉も、突き出した天辺も、すべてが静寂に縁どられていた。空を舞う一羽の鷹がわずかにその静寂にさざ波をたてていたが、まもなくその中へ深く沈み込んで姿を消してしまった。しばらくそうしているうちにモルゴンはふっと自分がひとりぼっちになったような気がして、ダナンの方を向いた。するとそこには巨大な松の樹が一本、アイシグの空の上で静かに夢を見ながらそびえ立っていた。
 彼は動かなかった。じっとしていると寒さが彼を苦しめにかかったが、やがて静寂が手に触れられるものとなって彼の呼吸や心臓の鼓動を律しはじめると共に、その感覚は過ぎ去ってしまった。静寂は彼の思考の中へ忍び込み、骨に浸透し、ついに彼は自分が空ろになり、冬の静けさを包む殻になったように感じた。彼を取り巻く樹々はまるでキルスの石の家々のように暖かい空間を作り出し、彼を冬から護ってくれた。耳をすますと、突然ぶんぶんと歌うような声が聞こえてきたが、それは導管が深い雪の下の堅い地面の下から、生命を汲み上げている音であった。彼は自分が根をおろし、山の律動に結びつけられているのを感じた。
(続きは 略)

 わかりにくいところもあるでしょうが、ダナンが樹に姿を変え、それに続いてモルゴンが樹になります。
描写が…とても好きな文章です。
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